患者さんが「私の言うことは聞いてくれないのに、あの先輩の話は素直に聞く」理由とは?

現場でよくある、ちょっと切ない場面──

「私の言うことは全然聞いてくれないのに、先輩が言ったらすんなり動く…」

同じ内容を伝えているのに、なぜこんなに反応が違うのでしょうか?

これは単に「先輩のほうがベテランだから」という話だけではありません。

実は、行動経済学という学問の中に、そのヒントが詰まっているのです。

この記事では、患者さんのこうした行動を「行動経済学の5つの視点」から解説し、実務で活かせる対応のヒントもご紹介します。

「好意を受けたら、お返ししたくなる」

人は誰しも、相手から何らかの恩恵や親切を受けると、「何か返したい」と感じる心理があります。

これが「返報性の原理」です。

実際の現場では

先輩スタッフが以前にその患者さんの話を丁寧に聞いてあげたり、ちょっとした手間を惜しまずサポートしたりしていた場合、患者さんの中には自然と「この人の言うことは聞かないと悪いな」「応えなきゃ」という気持ちが芽生えています。

つまり、先輩の一言が響くのは技術や立場だけでなく、「過去の好意に対するお返しの心理」が働いている可能性が高いのです。

「権威ある人の言葉は信じやすい」

人は、専門家や上位の立場の人の意見に従いやすい傾向があります。

実際の現場では

たとえ同じ内容を話していても、経験年数が長い先輩の言葉は「重み」があり、患者さんから見て「信頼できる」「プロっぽい」と感じられます。

それに対して、まだ関係性の浅いスタッフや若手の発言は、どうしても「軽く」見られてしまうことも。

「何を言うか」以上に「誰が言うか」が重要になるのが、行動経済学的な視点です。

「同じ内容でも、伝える人によって説得力が変わる」

これは「誰が伝えるか」が影響を与えるという心理です。

実際の現場では

患者さんにとって信頼感や好意を持てる相手の言葉は、耳に届きやすくなります。

逆に、あまり親しみを感じていない相手や、表情が硬かったり、言い方が事務的すぎる場合は、内容に関わらず「聞く気にならない」ことがあります。

「みんなが信じている人なら、自分も信じよう」

人は周囲の人々が信頼している相手や選択を「正しい」と感じやすくなります。

実際の現場では

その先輩が他の患者やスタッフからも信頼されている様子を見ることで、患者さんは「この人は間違いない」と無意識に思い込むようになります。

これは「先輩本人の魅力」というよりも、「周囲の評価」が影響しているという点で、興味深い心理です。

「信じたいことだけを信じる」

人は自分の先入観や信念に合った情報ばかりを集め、反対の意見は無視してしまう傾向があります。

実際の現場では

患者さんが「先輩=信頼できる人」と思い込んでいると、先輩の話は自然と「正しい情報」として受け入れられます。

逆に、「この人は新人かな?」「ちょっと頼りないかも」と感じたスタッフの話は、どれだけ正しくても「自分には合わない」と拒否反応が出てしまうことがあります。

行動経済学の視点から見ると、患者さんの態度には明確な「理由」があることが分かります。

では、私たちがその壁を越えるにはどうすれば良いのでしょうか?

実務に活かせる3つの工夫

1. まずは「小さな好意」を積み重ねる

 → ちょっとした気配りや共感が、返報性を引き出す第一歩。

2. 伝え方だけでなく「誰が伝えるか」も工夫する

 → 場合によっては、先輩に一言お願いして“橋渡し”してもらうのも有効です。

3. 患者さんにとっての「信頼できる人」になることを目指す

 → 時間をかけて信頼を積み重ねることで、自分の言葉にも力が宿るようになります。

「患者さんが自分の言うことは聞かず、先輩の言うことは聞く」という現象は、決して偶然ではありません。

行動経済学の観点から見れば、返報性・権威・信頼・社会的影響・思い込みといったさまざまな心理要素が複雑に絡み合っているのです。

理解が深まれば、対応も変わります。

そして、あなた自身が「信頼される存在」になるためのヒントも、そこにあります。

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