【現役作業療法士が解説】注意障害の症状、リハビリや日常生活での注意点

脳卒中リハビリ

注意障害とは?

注意障害とは、外的・内的事象に注意を適切に向けられなくなる高次脳機能障害の一つです。

ここで言う外的事象とは、目から見えている物や現象、耳から聞こえている声や音のこと。

内的事象とは、思考、心理状態、固有感覚(筋肉や関節が動いている感覚)などのことです。

注意障害と聞くと、集中力がなかったり、周りの刺激に対しての注意を思い浮かべやすいですが、

周りの刺激頭の中の両方への注意を考える必要があります。

主な病巣は前頭連合野(脳の前方部分)ですが、臨床場面では他の部位の損傷でも容易に障害を認めます。

日常生活は、情報処理の連続です。

情報処理を行うにあたって一番最初に必要なことは、「対象に注意を向ける」ことです。

横断歩道一つ渡るにしても、「横断歩道を認識する」「信号を認識する」「信号は青か赤か確認する」「車はきてないか確認する」など、無意識に複数の情報処理を行っています。

この注意障害がおきると、仕事・勉強・家事・運転などはもちろん、重症例では更衣・食事・会話などにも影響します。

また、リハビリを行う際も、そもそもリハビリに集中出来ていなかったり、セラピストの声に注意を向けられず、指示が入っていなかったりすることが多々あります。

本記事では、注意障害の種類と、リハビリや日常生活での注意点について解説したいと思います。

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注意障害の分類と症状

■ 容量性注意障害

 注意力のキャパシティが小さくなり、複数の情報を一度に処理することが難しくなります。

例1)車の運転で、信号や標識、周囲の車、ナビの音声など複数の情報を処理しきれなくなる。

例2)仕事や家事などで、以前は簡単に出来てたことでミスを連発する

■ 選択性注意障害

複数ある情報の中から、適切なものに注意を向けることが難しくなります。

例1)買い物をする時に、商品の中から適切な商品を見つけることが出来ない

例2)仕事や家事、食事中などに雑音や関係のない話し声や、頭の中の思考に反応してしまい、作業を遂行できない。

■ 持続性注意障害

対象への注意を持続させることが難しくなり、作業を続けることが難しくなります。

例1)運転している時に、一定の時間が立つと集中力が著しく低下し、信号無視や操作ミスが増える

例2)人の話や、映画・本などの内容を理解できない

■ 転換性注意障害

一つの物事から注意を切り替えることが難しくなります。

例1)仕事や家事にて、時間配分が出来ず、複数あるやらないといけないことの一つしか遂行できない

例2)会話中に、気になった話題や単語に執着してしまい同じ話を繰り返ししてしまう

■ 配分性注意障害

複数の情報を一度に処理することが難しくなります。

例1)運転中に、ハンドル操作に集中しすぎて、ナビの音声や周囲の人・車に注意を向けられない

例2)ダブルタスクができない(電話をしながらメモをとる・火をつけてるフライパンに気を付けながら食材を切る etc…)

リハビリ・日常生活での注意点

■ リハビリの環境を整える

注意障害の方は、周囲の刺激に対し容易に反応しやすい傾向にあります。

人の多いところや環境音がしているところなど、周囲からの刺激が多い場所でのリハビリは避けるようにしましょう。

また、日常生活上でも、何か作業をする時は可能な限り外部からの刺激が少なくなるように環境調整しましょう。

■ 今、注意が「外」にあるか「内」にあるかを感じ取る

天才スリ師のアポロ・ロビンスという人物をご存知でしょうか?

「天才スリ師」「紳士的な泥棒」という異名を持つセキュリティコンサルタント兼マジシャンです。

決して犯罪者という訳ではありません。

彼は、第39代大統領ジミー・カーターの護衛官(いわゆるシークレットサービス)のポケットから所持品を抜き取ったことから、一躍有名となりました。

彼は演説にて、

『人間の脳の中には小さな警備員(彼はこの警備員をフランクと呼んでいます)のようなものがいて、ハイテク機器を使って(目や耳や脳のこと)常に情報を処理して周囲を見張っている。

しかし、フランクの注意を少しだけ頭の中に向けると、その間新しい情報を処理することが出来なくなる』

と話しています。

つまり、人は外的な刺激と、頭の中の思考や記憶を一度に処理することが苦手だということです。

注意障害のある方は尚更のことでしょう。

スリから学ぶというのはいかがなものかと思う方もいると思いますが、

リハビリをする上でこのことを意識することは非常に大切だと考えます。

■ 動作中の指示やフィードバックは避ける

これに関しては、こういう場面を見ることは多々あります。

私自身もついしてしまう事があり、意識しながらではないと難しいです。

注意障害のある方の多くは、他の高次脳機能障害を併発しているパターンが多くあります。

先ほどのアポロ・ロビンスの話に加え、情報の処理や動作の遂行自体が難しい患者に対し、

何か動作をしてもらいながら指示やフィードバックを行っても、その声はほぼ届いていないと言ってもいいでしょう。

指示やフィードバックは、休憩中や、動作を一度中断させ注意をこちらに向けさせてから行うようにしましょう。

■ 声かけは15秒以内に

人が集中して人の話を聞ける時間は、わずか15秒だと言われています。

CMなどが15秒程で作られているのはこの理由からです。

つまり、注意障害のある方の集中力は、少なからず15秒より短い可能性が強いです。

声かけは分かりやすく端的に行うようにしましょう。

工夫次第で反応は変わる

注意障害の症状と関わり方について解説しました。

注意機能は高次脳機能の基礎であり、障害されると様々な場面で影響を受けます。

しかし、本人と周囲の工夫次第で、遂行能力は大いに変化します。

私も未だになかなか上手く対応できないことが多々ありますが、少しでも臨床のお役に立てれば幸いです。

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