✅ はじめに:なぜ「感覚の評価」が見落とされやすいのか?
リハビリ現場では、「筋力」や「関節可動域」「バランス」など運動系の評価に焦点が当たりがちです。
しかし、「感覚」の評価は運動の基盤ともいえる重要な要素です。
実際、「手足は動くのにうまく歩けない」「物をつかもうとしても手が震える」といった問題の背景には、感覚機能の低下が関与しているケースも多くあります。
本記事では、感覚の役割・種類・感覚と運動の関連性・評価のポイントまで、臨床で役立つ知識をわかりやすく解説します。
🎯 感覚とは何か?運動との深いつながり
▶ 感覚は「動きのガイド」
感覚とは、身体が外界や自分自身の状態を知覚するための情報です。私たちは視覚・聴覚だけでなく、以下のような身体内部の感覚によっても動作を調整しています。
- 表在感覚(触覚・痛覚・温度)
- 深部感覚(位置覚・運動覚・振動覚)
- 固有感覚(身体の位置や動きを把握する感覚)
これらの感覚は、脳に正確な「フィードバック情報」を届けることで、動きの開始・調整・学習に不可欠な役割を果たします。
🧠 感覚と運動の神経学的なつながり
感覚と運動は分離された機能ではなく、密接に連携しています。
◉ 感覚の低下が及ぼす運動障害の例
感覚障害 | 起こりうる運動障害 |
---|---|
深部感覚障害 | 歩行中のふらつき、足の位置がわからず転倒しやすい |
触覚障害 | 物をつかむ強さが調整できず、握力に問題がなくても物を落とす |
温度覚・痛覚低下 | 熱傷や褥瘡のリスク増大、自己防衛反応の欠如 |
神経生理学の研究によると、一次体性感覚野(S1)への入力が遮断されると、運動制御も低下することが示されています(Jones, 2000)。
🔍 感覚評価の目的と重要性
✅ 感覚評価を行う3つの目的
- リスク管理(褥瘡・やけど・転倒)
- 運動機能回復の阻害因子を特定する
- リハビリプログラムの最適化(感覚入力への介入)
感覚障害を見逃すと、運動学習が進まない、バランス訓練が非効率になるなど、リハビリ全体の成果が出にくくなる可能性があります。
🛠 感覚評価の主な項目と方法
▶ 評価すべき感覚の種類と手法
感覚の種類 | 評価方法(例) |
---|---|
触覚 | 綿球や筆での触刺激テスト |
痛覚 | 鋭・鈍の判別(安全ピンなど) |
温度覚 | 温・冷の金属器具での刺激 |
深部感覚(位置覚) | 関節を他動的に動かしての同側・対側模倣 |
運動覚 | 他動運動に対する動きの同調 |
振動覚 | 音叉を用いた骨上評価(例:脛骨、橈骨) |
※信頼性の高い評価を行うためには、目を閉じた状態でのテストが基本です。
💡 感覚評価を活かしたリハビリ戦略
感覚評価をふまえることで、以下のような戦略的な介入が可能になります。
◉ 例1:感覚障害による歩行不安定への対応
→ 足底への刺激を強化(凸凹マット、サンドペーパーなど)し、感覚入力の強化を図る。
◉ 例2:片麻痺による上肢の感覚低下
→ ミラーセラピーや表在感覚再教育で感覚フィードバックを回復。
📚 参考文献・エビデンス
- Jones, E. G. (2000). Cortical and subcortical contributions to movement. Science, 287(5454), 602-604.
- Carey, L. M., Matyas, T. A., & Oke, L. E. (2002). Sensory loss in stroke patients: effective training of tactile and proprioceptive discrimination. Archives of Physical Medicine and Rehabilitation, 83(4), 505-515.
- 日本神経学会 編(2023)『神経学テキスト』南江堂
✍ まとめ:感覚評価は「見えない問題」を可視化する鍵

感覚は「見えにくい」機能であるため、見過ごされがちです。
しかし、リハビリの質を左右する「土台」である感覚に目を向けることで、より効果的で安全なリハビリを提供することが可能になります。
患者さん一人ひとりの**「感じる力」を理解することが、「動く力」の最大化につながります。
💬 あなたの臨床現場では感覚評価、実施できていますか?
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