肩の痛みが長引いている、夜間にズキズキ痛む、腕が上がらない…。
そんな症状がある方は腱板損傷の可能性があります。
この記事では、腱板損傷の**原因・症状・治療法・経過(予後)**について、最新の知見とリハビリの視点からわかりやすく解説します。
腱板損傷とは?
腱板(ローテーターカフ)とは、肩関節を安定させる4つの筋肉(棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋)の腱の集まりです。
この腱板が加齢や外傷などにより断裂することを**腱板損傷(または腱板断裂)**といいます。
原因
1. 加齢による変性(退行性変化)
中高年(特に50歳以降)で多く見られ、自然に腱が摩耗・断裂していくケースです。
• 血流の乏しい部位(特に棘上筋腱)で変性が進行しやすい
• スポーツ歴がなくても起こり得ます
エビデンス:Yamamoto et al. (2010)の研究では、60歳以上の無症候性高齢者の20〜30%以上に腱板断裂が存在すると報告されています。
2. 外傷性
転倒や重いものを持ったときなどの強い負荷で腱が断裂する場合です。
• 若年者でも発生し得る
• 痛みが突然出る、腕がすぐに上がらなくなることが特徴
症状
• 肩の鈍痛や夜間痛
• 腕を上げると痛い、または腕が上がらない
• 動かすと「ゴリゴリ」「引っかかる」ような違和感
• 慢性化すると筋力低下や拘縮も出現
👉 特に「夜間痛」がある場合は腱板損傷を疑います。
診断方法
1. 理学所見(ペインフルアークサイン、ドロップアームテストなど)
2. 画像診断
• 超音波検査(ベッドサイドで可能)
• MRI(断裂の部位や大きさを確認)
ガイドライン参照:日本整形外科学会の診療ガイドライン(2019年)では、MRIが最も信頼性の高い診断法とされています。
治療法
保存療法(手術しない方法)
以下のようなケースでは保存療法が選ばれます:
• 痛みが軽度で、日常生活に支障が少ない
• 高齢で手術リスクが高い
• 部分断裂や変性による断裂の場合
保存療法の内容:
• 消炎鎮痛剤(NSAIDs)
• 理学療法(リハビリ)
• 可動域訓練
• 肩甲骨周囲筋の強化
• 姿勢改善
• 注射治療(ヒアルロン酸、ステロイドなど)
エビデンス:Kuhn et al. (2013) によるRCTでは、軽度から中等度の腱板損傷において理学療法が手術と同等の改善効果を示したと報告されています。
手術療法
以下のようなケースでは手術が検討されます:
• 完全断裂(特に若年者)
• 保存療法で改善しない
• 明らかな機能障害や痛みが続く
手術の種類:
• 関節鏡下腱板修復術(ARCR):現在の主流
• 腱移行術・人工肩関節(重症例)
参考データ:手術後の再断裂率は**20〜40%**程度とされており、術後のリハビリが非常に重要です(Galatz et al., 2004)。
経過・予後
• 部分断裂の場合:保存療法で6〜12週間ほどで日常生活が改善する例が多い
• 手術後:リハビリは最低3〜6ヶ月、スポーツ復帰には6ヶ月〜1年
予後に影響する因子
良い予後が期待できる要因 | 予後が不良になりやすい要因 |
若年で早期治療 | 高齢・長期間放置 |
部分断裂・断裂サイズ小 | 完全断裂・大断裂 |
術後のリハビリ継続 | リハビリ不十分・再断裂 |
まとめ
腱板損傷は、年齢に伴う変性や外傷によって発生しやすい疾患です。
痛みや運動制限が続く場合は、放置せずに整形外科を受診し、早期の診断・治療・リハビリが重要です
✅ポイントまとめ
• 肩の夜間痛・運動制限があれば要注意
• 高齢者では自然発生的な腱板断裂が多い
• 保存療法で改善するケースも多いが、重症例では手術が必要
• リハビリが治療の鍵
参考文献・エビデンス
1. Yamamoto A, Takagishi K, Osawa T, et al. Prevalence and risk factors of a rotator cuff tear in the general population. J Shoulder Elbow Surg. 2010;19(1):116–120.
2. Kuhn JE, Dunn WR, Ma B, et al. Effectiveness of physical therapy in treating atraumatic full-thickness rotator cuff tears: a multicenter prospective cohort study. J Shoulder Elbow Surg. 2013;22(10):1371–1379.
3. 日本整形外科学会. 腱板断裂 診療ガイドライン 2019年版.
4. Galatz LM, Ball CM, Teefey SA, et al. The outcome and repair integrity of completely arthroscopically repaired large and massive rotator cuff tears. J Bone Joint Surg Am. 2004;86(2):219–224.
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