半側空間無視のリハビリ・治療方法、回復過程【現役作業療法士が解説】

脳卒中リハビリ

半側空間無視のリハビリについては、様々な研究がされており、

反応の良い方法を複数組み合わせるなど、緻密な治療計画が必要だと言われています。

今回は、半側空間無視のリハビリ・治療方法、回復過程について解説したいと思います。

→半側空間無視の病態と症状、評価方法の解説はコチラ

患者自身が「半側空間無視」を発見・自覚する7つの過程

半側空間無視の患者が、自身の「半側空間無視」を自覚するには、7つの過程があるとされています。

①未知の事態の経験

自分の身体や空間・時間感覚に何かしらの異変が起こっていると感じるが、

内容が把握できず対処方法も分からないため不快に感じている状態。

また、「左が見えていないから気を付けなさい」と注意されるが、何がなんだか分からないため、ただ怒られている気になる。

②新旧比較

病前のように上手く出来なくなったと感じるが、なぜ上手く出来ないのか・どう対処すればいいのか分からない状態。

また、ただただ失敗が積み重なるため、怒りの感情が湧いてくる。

③説明探し

生活の中でなぜ失敗が増えたのか考えるようになる。

そして、それは慣れていない環境(自宅じゃない)だからだと考える。

④新事態への馴染み

病前と異なる生活に馴染み始める。また、左空間に対する問題があるらしいと思い始めたことを示すようになる。

左下肢はほぼ自己所有感を取り戻し、左上肢はたとえ違和感があるとしても自分で持ち歩かないといけないものだと考えるようになる。

⑤障害の理解

左空間に対する問題(障害)があることを理解するようになる。

ただし、直感的な理解ではなく、「頭の中では理解している」という状態。

障害克服のため、方法を探したり用いるようになる。

⑥ 生活の場での障害対処法の工夫

生活場面において、半側空間無視に対する代償方法を意識的に使い始める。

イメージ・リハーサルを繰り返し、試行錯誤により自己流の代償法を見つけ出す。

事が重要あるいは見知った状況(トイレ・食事など)であればあるほど探索が成功しやすい。

⑦新たなストラテジー(方略)の消火

多くの意識的経験から、左空間を探索しなければという意識が自動的に生まれるようになる。

「左を見る、左を見る」と頭の中で言い聞かせながら探索するようになる。

以上のようなプロセスを踏んでいくが、対象の生活動作が「出来る」か「出来ない」かの判断は難しいことが多い。

特に、『まだ経験していない動作(仕事や自宅での家事など)』に関しては、

「出来る(医療者的には出来なさそう)』と言う傾向にある。

半側空間無視の回復過程 

発症後2週間がポイント

Stone(1992)やFarne(2004)らの研究により、

半側空間無視は発症から10〜14日までに大幅な改善がみられるとされています。

右半球損傷(左半側空間無視)と、左半球損傷(右半側空間無視)を比べた場合、

右半球損傷の方が、障害が重い傾向にあり、回復指数も低いことが分かっています。

永続型と一過性型

また、Cherneyら(2001)は、

半側無視には発症6ヶ月を超えてなお存続する永続型と、

6ヶ月以内に消失する一過性型の2つがあると述べています。

半側空間無視のリハビリテーション

リハビリを始める前に

■ 失敗に対する説明・心の準備を促す

半側空間無視のリハビリや生活を送っていく中で、患者は「左を見落とす」「左を見るように注意される」と言う『失敗体験』を避けて通れません。

このような『失敗体験』は、「学び」の機会になることもありますが、その反面モチベーションを下げる要因にもなります。

患者のモチベーションをいかに維持するかというのは、リハビリを行う上で非常に重要であり、リハビリ効果にも影響します。

そのため、患者に対し

「初めのうちは思いがけない失敗をたくさんします。しかし皆さんそうですから、落ち込まないでください。少しずつ失敗は減ってきます。」

ということを説明し、『失敗』に対する心の準備を促すことも大切なことです。

■ 「皆んな失敗を経験する」ことを理解してもらう

また、ここで重要なのは「皆さん失敗する」ということを強調することです。

「自分だけが特別悪いわけじゃないんだ」「他の人も経験していったことなんだ」と言うことを理解して頂くだけでも、気の持ち様は全く違います。

半側無視そのものに対する訓練

■ 視覚走査訓練 (推奨グレードA)

広がりを持った視覚対象に対し、隅から隅まで順序良く系統立てて見ていく訓練です。

半側空間無視は、左に向かう飛躍的眼球運動(サッケード)や、探索活動が怒らないとが分かっています。

視覚走査訓練により、左空間への視野を広げ、半側空間無視を軽減させると言われています。

日常生活の自立度に汎化したという研究結果がある一方、

訓練の効果は他の類似課題(似たような性質を持った課題)の範囲に留まるという研究結果も多数あり、物品や方法の緻密な訓練計画が必要になります。

■ 「患肢の使用」による反対側半球の活性化(推奨グレードA)

半側空間無視の場合、対象課題を行う前・最中の「患肢の使用」が、半側無視を軽減させることが分かっています。

この「患肢の使用」に関する研究は多数あり、以下のような研究結果が出ています。

・使用手の反対側半球の活性化よりは、作業開始直前の「手の位置」の方が優位に働いた。(Halligan.1991)

・「左空間で左手指を能動的に動かす」ことが、左半側空間無視を減少させた。(Reberton.1992)

・日常活動や訓練を行う時に、合間に左手運動を行うようにすることで、正の効果を示した。(Reberton.1992)

・歩きながら左手指の開閉動作を行なった場合、歩行中の頭の偏りが有意に減少した(Reberton.1994)

■ プリズム眼鏡 (推奨グレードB)

プリズムを重ねた眼鏡を使って、光学的入力を偏向させ、このことに脳を適応させようとするもの

半側空間無視の劇的な改善を認めたという研究結果や、

他の課題への汎化や持続性が得られたという研究結果が多くあり、半側空間無視のリハビリとして支持されている治療法です。

一方、症例によっては効果が得られなかったという研究もあり、病巣部位との関係性も指摘されています。

■ アイパッチ・視野遮断 (推奨グレードB)

半球損傷と同側の目を多い、視野を遮断する方法

この方法には様々な議論がされており、有意性がみられる場合と、有意な差が全くみられらなかった場合がある。

■ 動作に伴う体性感覚入力 (推奨グレードB)

神経発達的治療法を用いた訓練。

リーチ訓練や、寝返り動作に伴い、セラピストが徒手的な操作を加え、動作に伴う体性感覚入力を行う方法

渕らの研究により、単一光刺激に対する無指数の減少と、反応時間の短縮が示唆された。

■ 無視空間への手がかりの提示 (推奨グレードB)

半側空間無視 手がかり

左空間への視覚的走査を促すため、左側へ何かしらの手がかり(キュー)を与えること

Top-downアプローチの一つ。

探索課題の左端に赤いテープを貼る、読本教材のページの左端に赤い縦線を書き入れる、などである。

Halliganらの研究によると、

患者自身にマークを付けさせた場合に、最も有意な改善がみられたという。

日常生活動作にも応用が期待できると考えています。

■ 頸部筋振動刺激 (推奨グレードB)

対側の後頭部の筋に振動刺激を与えながら、視覚探索訓練を行うことで半側無視の改善効果があるとされている。

視覚以外の感覚系も用いた治療法として注目されている。

正中方向の偏位の正中化や、探索課題にて有意な改善がみられ、持続性や生活場面への汎化も認めることが分かっている。

■ 経頭蓋磁気刺激(TMS) (推奨レベルC)

短い磁気パルスを使用して脳の神経細胞を刺激する非侵襲的な治療方法。

繰り返し行うことで、半側無視の改善、及び持続的な効果があるとされています。

しかし、機材が揃っている施設に限られるため、実際の臨床場面では行うことが難しい場合がほとんどだと思われる。

■ 体幹回旋を伴う探索訓練 (推奨グレードC)

 Wiart(1997)の研究により、

体幹回旋をしなければ対象物の探索が出来ない装置を使っての視覚探索訓練の結果、

姿勢と半側空間無視検査の成績が共に有意に改善し、持続性も認められたと言う報告された。

環境設定次第で、探索訓練やリーチ訓練に組み込むことで効果が見込める可能性がある。

■ VR訓練 (推奨グレードC)

VR(バーチャルリアリティ)を利用した訓練

様々なプログラムを使用して行うことができ、半側空間無視のリハビリや新たな評価方法としても近年注目が集まっている。

半側空間無視の改善に効果的であったという報告もある一方、実生活で汎化がみられらなかったという報告もあり、今後に期待されている。

参考文献・著書

「一般社団法人.日本作業療法士協会:作業療法ガイドライン-脳卒中-」

「渕 雅子:半側空間無視のリハビリテーションの原点とトピック-機能障害から生活障害へ-,高次脳機能研究39」

「渡辺 学,他著:半側空間無視に対するプリズム順応の有効性と臨床属性.理学療法-臨床・研究・教育第17巻第1号」

「石合 純夫:半側空間無視へのアプローチ.高次脳機能研究.第28巻第3号」

「鎌倉 矩子:高次脳機能障害の作業療法」

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まとめ

今回は、半側空間無視のリハビリ・治療方法について解説しました。

様々な文献や著書を参考に解説させて頂きましたが、皆さん感じている様に、現在提唱されているリハビリに万能の方法はありません。

また、いくら机上検査の成績が改善したとしても、生活動作に汎化しなければ意味がありません。

その患者にどの方法が適しているからは、反応を確かめつつ評価していく必要があるでしょう。

本記事が少しでも多くの半側空間無視に悩む患者様・ご家族、セラピストのお役に立てれば幸いです。

それでは。

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