【現役作業療法士が解説】高次脳機能障害とは?認知症との違いは?種類と症状

脳卒中リハビリ

脳卒中や頭部外傷などで、脳に損傷を受けたことが要因で発症する高次脳機能障害

記憶力が著しく低下する「記憶障害」、物の使い方が分からなくなってしまう「失行」など、症状は様々あります。

医療従事者は高次脳機能障害をお持ちの患者さんと接する機会は多くありますが、一般的にはご家族や知り合いが発症して初めて接するため、非常に困惑されます。

また、周囲の人からすると、あまりにも信じ難い症状のため、「なんでそんなことが出来ないの?」「わざとしてるんじゃない?」と疑われる方もおり、相談を受けることも多くあります。

今回は、高次脳機能障害について、分かりやすく解説したいと思います。

※脳卒中の解説はコチラ

高次脳機能障害と認知症の違いは?

高次脳機能障害路は、脳卒中や頭部外傷などにより、言語・行為・認知・記憶・注意・判断などの機能が障害される状態のことです。

認知症の場合、発症時期が特定できず徐々に進行してきます。

一方、高次脳機能障害は、脳卒中や頭部外傷など、発症時期がはっきりと特定できます

つまり、高次脳機能障害と認知症の大きな違いは「発症時期が特定出来るか出来ないか」ということです。

また、高次脳機能障害は進行性ではないという点も認知症との違いです。

高次機能障害の種類としては、注意障害遂行機能障害記憶障害社会的行動障害失語失認失行があります。

手足の麻痺などに比べ、外見的に障害が見え難いため、周囲からの理解が得られにくい場合が多々あります。また、本人にも自覚がない場合もあります。

机上での検査では認めなかったが、日常生活で出現するパターンもあるため、医療者でも見落とすことがあり、少しでも「病前と比べて苦手になったな」「なんか上手く出来ないな」「こんなミスしたことないのに」ということがあれば、病院に相談することをお勧めします。

症状

注意障害

注意機能障害

注意障害とは、外的・内的事象に注意を適切に向けられない状態のことです。

主な病巣は前頭連合野(脳の前方部分)ですが、臨床場面では他の部位の損傷でも容易に障害が生じます。

日常生活は、情報処理の連続です。この注意障害がおきると、仕事・勉強・家事・運転などはもちろん、重症例では更衣・食事・会話などにも影響します。

注意障害は以下の種類に分類されます。

容量性注意障害

 注意力のキャパシティが小さくなり、複数の情報を一度に処理することが難しくなります。

例1)車の運転で、信号や標識、周囲の車、ナビの音声など複数の情報を処理しきれなくなる。

例2)仕事や家事などで、以前は簡単に出来てたことでミスを連発する

選択性注意障害

複数ある情報の中から、適切なものに注意を向けることが難しくなります。

例1)買い物をする時に、商品の中から適切な商品を見つけることが出来ない

例2)仕事や家事、食事中などに雑音や関係のない話し声に反応してしまい、作業を遂行できない。

持続性注意障害

対象への注意を持続させることが難しくなり、作業を続けることが難しくなります。

例1)運転している時に、一定の時間が立つと集中力が著しく低下し、信号無視や操作ミスが増える

例2)人の話や、映画・本などの内容を理解できない

転換性注意障害

一つの物事から注意を切り替えることが難しくなります。

例1)仕事や家事にて、時間配分が出来ず、複数あるやらないといけないことの一つしか遂行できない

例2)会話中に、気になった話題や単語に執着してしまい同じ話を繰り返ししてしまう

配分性注意障害

複数の情報を一度に処理することが難しくなります。

例1)運転中に、ハンドル操作に集中しすぎて、ナビの音声や周囲の人・車に注意を向けられない

例2)ダブルタスクができない(電話をしながらメモをとる・火をつけてるフライパンに気を付けながら食材を切る etc…)

遂行機能障害

遂行機能障害とは、計画をたて物事を段取りよく遂行することが難しくなる状態のことです

上記で説明した注意機能や記憶・言語などを統合する機能のため、「より高次」な機能です。

遂行機能には、目標設定計画の立案(プランニング)、計画通りに実行する、行動の自己評価・修正他者からのフィードバックの利用認知的柔軟性など様々あります。

例1)料理を行う際に、頭の中で段取りを立てて容量良く遂行することが出来ない。何から手を付けたら  いいか分からず、料理を始められない。

例2)「電車が遅れている」「急に別の仕事を依頼された」「家の消耗品がきれた」など、予想外のことに柔軟に対応出来ない。

記憶障害

「記憶」という概念を統一することは難しいですが、臨床的に認める記憶障害は大きく分けて以下の2つです。

● 新しいことを覚えられない

● 発症前の古い記憶や知識を思い出すことが出来ない

上記のような種類の記憶を「陳述記憶」といい、記憶を言語的に説明・表現できるかどうかに関わらず、意識的に表現できる記憶のことをいいます。

一方、ボールの投げ方や、パソコンのマウス操作の仕方など、いわゆる「体で覚えてる」記憶のことを「手続き記憶」と呼び、この手続き記憶は記憶障害のある患者にも比較的保たれます。

記憶障害は、以下のように分類されています。

■ エピソード記憶の障害

 特定の場所と時に体験した出来事(エピソード)を思い出せなくなります。

エピソード全般を忘れることもありますし、大まかなエピソードは覚えてるが、断片的に思い出せない場合もあります。

例1)昼ご飯を食べたかどうか思い出せない

例2)家族と会ったが、いつ会って何の話をしたかは思い出せない

■ 短期記憶障害

 臨床的には、短期間で起きた新しい出来事や、情報を思い出せなくなることを指すことが多い。

例1)ついさっき今日の日付を教えてもらったが、思い出せない

例2)さっき家族と会ったことを忘れてしまう

 医学的には、数唱や単語リストのような、少量の情報を短時間保持することが出来なくなることを短期記憶障害と定義しているようです。

例)一定数の単語を覚えてもらい、その直後に思い出すよう指示すると思い出せない

例)単語の記憶・想起は出来ないが、意味のある文章や物語は可能

■ 意味記憶障害

言葉の意味や、物の名前や使い方など、「知識」と呼べる記憶が幅広く、または部分的に障害されます。

例1)言葉や物の名前が思い出せず、伝えたいことが正確に伝えられない

例2)「和食と洋食はどちらが好きですか?」→「わしょく?あ〜…わしょくってなんですか?」

作話

意図的ではなく、嘘をつこうと思っている訳ではないが、記憶内容を変造し実際に起こっていないことや、事実ではないことが、その人の記憶として現れてしまう病態のことです。

例1)「東京にいる息子が帰って来るので(←実際は違う)、空港まで迎えに行ってきます。」と身支度を始める。

例2)Aさん「お久しぶりです。」→ 患者「この前あったばかりじゃないですか。駅前の美味しいショートケーキまで頂いて。ありがとうございました。」

その人にとってはそれが事実のため、比較的具体的な内容を表出します。

社会的行動障害

社会的行動障害とは、感情コントロールが難しく、すぐカッとなったり、他人や物事に興味を持たなくなる病態のことです。

以下のような症状を認めます。

■ 感情コントロールの低下

すぐカッとなり大声を出してしまう。急に泣き出してしまう。適切ではない場面で笑ってしまう。

■ 欲求コントロールの低下

ギャンブルに多額の金額を使用してしまう。お腹が空くと時と場所に関わらず暴食してしまう。異性への性的欲求を自制出来ない。

■ 共感能力の低下

相手の気持ちや状況に配慮したコミュニケーションが取れない。冗談が通じず怒ってしまう。勧められるがままに物を購入したり契約してしまう。

■ 反社会的行動

異性へのセクハラや、些細なことで暴力が目立つようになる。万引きや詐欺などを日常的にするようになる。

■ 意欲・発動性の低下

何かをしようとする意欲が著しく低下し、ボーッとしていることが多くなる。他人や物事に興味を示さなくなる。服を用意し、服を脱がさないと一日中着替えようとしないなど。

失語

失語とは、言語機能が障害され、話す・聞く・読む・書くことが全般的に障害される。あるいは部分的に障害される病態のことです。

失語症は大脳の左半球の損傷90%と言われています。

失語症は、大きく分けて3つに分類されます。

■ 運動性失語(ブローカ失語)ー 発話の障害

言葉の理解力は保たれているが、話そうとすると言葉が思い浮かばず、上手く話せない病態のことです。

・「うん」「いいえ」程度は話せるが、言いたい言葉は出てこない(「あの」「あれが」などが多い)

・短い単語程度なら話せるが、音の一部を誤る(くるま→くレメ)

・文章も話せるが文脈や単語のチョイスが適切ではない

など、障害の程度は様々です。

■ 感覚性失語(ウェルニッケ失語)ー 理解の障害

言葉は流暢に話すことができるが、物の名前が分からなかったり、相手の話が理解できない病態のことです。

・聞き馴染みのある物品の名称を聞いてもそれがどの物品が選べない。

・短い文章や「はい」「いいえ」で答えることができる文章は理解できるが、複雑な文章は理解できない(「お名前はなんですか?」→患者「今日は晴れです」)

・物の名前を間違える(くるま→つくえ)

■ 全失語 ー 発話と理解の障害

運動性失語(発話)と感覚性失語(理解)の両方を障害される病態のことです。

この場合、以下に紹介する復唱や読み書きも障害されることが多く、コミュニケーションが非常に難しくなります。

その他の症状

◆ 復唱障害

 提示した単語を正確に復唱できないません。

運動性失語・感覚性失語の両方でみられますが、症状は若干異なります。

運動性失語の場合:「りんご」 → 「あ…(言葉が出てこない)」「レんご(音を誤る)」 

感覚性失語の場合:「りんご」→ 「…?(復唱してください・真似してくださいが理解できない)」「みかん(単語を誤る)

◆ 読みと書字の障害

失語では読み書きの障害は比較的容易に出現する。

しかし、口頭での表出は難しいが書字での表出は可能なパターンや、聴覚的な理解は難しいが、読みであれば理解可能なパターンもある。

失認

失認とは、視覚や聴覚、体性感覚(触覚・痛覚・深部感覚)などの要素的感覚、上記で説明した注意障害や失語などの異常は認められないにも関わらず、対象を理解できない障害のことです。

失認に関しては、特定が難しく、現在でも賛否両論の聞かれる障害の一つです。

失認は大きく分けて3つに分類されます。

■ 聴覚性失認(皮質聾、環境音失認)

耳の構造や機能には問題ないが、脳での音の認識が障害される。

 皮質聾:音(聴覚情報)を音として全く認識できない。

 (例)

 ・大声で呼んでも反応しない。

 ・電話が鳴っても反応しない。

 環境音失認:音(聴覚情報)は聞こえるが、その音が何の音なのか理解できない。

 (例)

・音楽を音としては聞き取れるが、音楽としては聞き取れない。

・電話の呼び鈴は聞こえるが、それが何の音なのか分からない

■ 視覚性失認(物体失認、相貌失認)

目は問題なく見えているが、見ているものが何なのか認識できない。

 物体失認:見ているだけではその物体が何なのか認識できない。匂いを嗅いだり、触ったりすると認識できる。

 例)りんごを見てもそれがりんごとは認識できないが、食べるとりんごだと認識できる

 相貌失認:見慣れた人(家族や友人・恋人など)でも、見ただけではその人が誰なのか認識できない。

 例)夫を見てもそれが誰なのか分からないが、声を聞くと夫だと認識できる。

■ 身体失認(半側身体失認、身体部位失認、病態失認、左右失認、手指失認)

 半側身体失認:自分の半身を認識することが出来ず、全く使おうとしなかったり、無いものとして生活する。左半身に多い。

例)左半分だけ化粧をする。 例)麻痺のある左半身を認識出来ず、普通に歩こうとして転倒する。

 身体部位失認:身体の一部を触られても、触られていることはわかるがそれがどこなのか分からない。

 病態失認:片麻痺などの病態があるにも関わらず、それを否認または無視すること。

 左右失認:自分にとってどちらが右か左か分からなくなること。

 例)「そこの角を左」と言われてもどっちに曲がればいいか分からない。

 手指失認:自分の指を触られても、触られているのはわかるがそれが何指なのか認識出来ない。

失行

失行とは、生まれてから今まで学習し、当たり前のように行ってきた動作が、手足の麻痺や重度の高次脳機能障害がないにも関わらず、意識的に遂行出来なくなる障害のことです。

行おうとした動作全てが遂行出来ない、あるいは部分的に遂行出来なくなります。

しかし、同じ動作でも行える時と行えない時があり、遂行能力にむらがあることが特徴の一つです。

観念性失行

日頃から使い慣れている物の使い方が分からなくなったり、動作の手順が分からなくなる障害です。

例1)歯ブラシの使い方が分からず、動作が止まってしまう

例2)急須に蓋をしたまま、ポットからお湯を入れようとする

観念運動性失行

無意識では目標としている動作を行えるが、口頭で指示されたり、模倣するように指示されると出来なくなってしまう障害です。

例1)『手で「バイバイ」してください』と指示されると出来ないが、無意識では行えている

例2)普段は問題なく包丁を使えているが、「包丁で切る真似をしてください」と指示されると出来ない。

構成障害(構成失行)

対象物の形を二次元・三次元的に正確に把握し、空間的構成ができなくなる障害です。

しかし、造形作品や空間的不正を認めても、脳内で何が起こっているかは不明です。

それが真の構成失行なのか見せかけの構成失行なのかは分からないことが多いです。

そのため、今では『構成障害』と呼ぶことが多くなりました。

例1)簡単な図形の模写や、積み木が出来ない。

例2)片付けが出来ない

構成障害単独で出現することは少なく、半側空間無視や、全般性知能の低下などが影響することが多い。

肢節運動失行

運動麻痺や感覚異常などがないにも関わらず、指先での細かい作業が出来なくなる障害です。

例1)ボタンが閉められない

例2)お箸で小さい食材を掴めない。

着衣失行

運動麻痺や感覚異常がないにも関わらず、衣服を正しく着たり脱いだりすることが出来なくなる障害です。

単独での出現は少なく、半側空間無視、注意障害、構成障害などと併発することが多い。

終わりに

高次脳機能障害は、麻痺や感覚障害などに比べ分かりにくいですが、日常生活やリハビリにも非常に影響します。

周囲の人も大変ですが、やはり本人が一番困惑されるため、少しでも知識として持って頂けると幸いです。

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