🟦 はじめに

ボタンを留める、ペンを持つ、スマホを操作する──こうした日常の動作には、指先の「巧緻性」が欠かせません。
しかし脳卒中や神経障害の後では、指が思うように動かなくなることがあります。この記事では、指の細かな動きを改善するために有効な4つのリハビリアプローチを紹介します:
- 力を抜いて動かす巧緻性訓練
- 指を正確に動かす手内在筋の賦活訓練
- 麻痺側の手を使い続けるCI療法
- 感覚を活性化させる感覚入力訓練
🟨 巧緻性の重要性とは?
巧緻性(こうちせい)とは、指先を使った精密で協調的な運動能力のことです。
- 食事(箸やスプーンを使う)
- 洋服のボタンを留める
- スマートフォンの操作
- お金を数える・カードを取り出す
- 家事全般の細かな手作業
これらはすべて、筋力だけでなく「正確に動かすコントロール力」や「脱力して力を抜く力」に支えられています。
🟨 リハビリ①:力を抜いて動かす巧緻性訓練

🔸なぜ「力を抜く」ことが大切か?
脳卒中後などでは「頑張って動かそう」とするあまり、過剰な筋緊張(努力性緊張)が生じます。
これが逆に運動を妨げ、細かい操作ができなくなる要因になります。
そのため、まずは力を抜いた状態で動かす訓練を行い、リラックスした動きの感覚を再学習する必要があります。
🔸訓練例
訓練名 | 方法 | ポイント |
---|---|---|
指タッピング | 指を1本ずつ机に軽くタップ | 他の指に力が入っていないか観察 |
指の波運動 | 指を1本ずつ順番に曲げ・伸ばす | 分離運動と協調運動を促す |
ティッシュつまみ | 力を入れずに紙を摘んで移動 | 最小限の力で保持 |
🟩 リハビリ②:手内在筋の賦活訓練

🔸手内在筋とは?
手内在筋は、指の器用な操作に欠かせない小さな筋肉群で、以下のような働きがあります
- MP関節の屈曲/IP関節の伸展(lumbrical)
- 指を左右に開く・閉じる(骨間筋)
- 母指の対立(対立筋)
これらは、日常の「つまむ・ひねる・挟む」動作の要になります。
🔸目的
MP関節の屈曲や指の開閉などを担う「手内在筋」を鍛えることで、つまむ・ひねるなどの動作の質を高めます。
🔸訓練例
訓練名 | 方法 | 対象筋 |
---|---|---|
指開閉運動 | 指を横に開いて閉じる | 骨間筋 |
MP屈曲/IP伸展 | 指の根元を曲げ、先を伸ばす | 虫様筋 |
ピンチ練習 | 指先でコインや小物をつまむ | 対立筋・虫様筋 |
🟥 リハビリ③:CI療法(Constraint-Induced Movement Therapy)

🔸CI療法とは?
CI療法(強制介入療法)とは、麻痺側の手を積極的に使う訓練です。
非麻痺側を制限(ミトンで覆うなど)しながら、麻痺側での日常動作を反復することで、脳の可塑性を促し、運動機能を改善させることを目指します。
🔸CI療法の3つの基本構成
- 非麻痺側の使用制限(mitt使用など)
- 反復練習(課題指向型タスク)
- 転移パッケージ(日常への応用と記録)
🔸目的
非麻痺側を制限し、麻痺側の手を使い続けることで脳の可塑性を引き出します。
🔸訓練例
課題 | 方法 | 効果 |
---|---|---|
コイン移動 | 指先でコインを拾い箱に移す | ピンチ力と持続使用の促進 |
マジックテープ操作 | 開閉を繰り返す | 運動範囲と協調性の改善 |
ボタンかけ | 実際の洋服を使って練習 | 実生活への汎化 |
🔸CI療法の効果とエビデンス
- 脳の可塑性を促進する(Taub et al., 2006)
- 麻痺側の実用性が向上(EXCITE試験)
- 実生活での使用頻度が上昇(Motor Activity Logによる評価)
🟦 リハビリ④:感覚入力訓練(Sensory Stimulation)

🔸目的
指の「感じる力」が低下すると、動きのコントロールも困難になります。
感覚入力訓練では、「触覚・圧覚・温度感覚」を刺激し、感覚フィードバックを取り戻すことを目的とします。
🔸訓練例
方法 | 素材・道具 | 目的 |
---|---|---|
触刺激 | タオル、ブラシ、フェルト等で指先をなでる | 表在感覚の再活性化 |
圧刺激 | 柔らかい粘土やスポンジを握る | 深部感覚(固有感覚)促進 |
温度刺激 | 温冷タオルの交互刺激 | 皮膚感覚の再学習 |
二点識別 | 指先に2点で触れ、感覚の距離感を再教育 | 感覚分化能力の向上 |
🔹感覚入力の工夫例(CI療法+感覚入力)
- 課題前に「指先のブラッシング」
- 手内在筋訓練中に「粗いタオルを下に敷く」
- 粘土や小豆などを使った「感触つきピンチ動作」
✅ まとめ:4つのリハビリの統合的アプローチ
アプローチ | 内容 | 目的 |
---|---|---|
巧緻性訓練 | 脱力して細かく動かす | 不要な緊張を減らし、コントロール性を高める |
手内在筋賦活 | 小さな筋肉を強化 | 操作性・分離運動の改善 |
CI療法 | 麻痺側を使い続ける | 可塑性と実用性の向上 |
感覚入力 | 感じる力を取り戻す | 感覚と運動の統合強化 |
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