肩関節は可動域が広い一方、不安定な構造をしています。
そのため、さまざまな問題が生じやすい関節の一つです。
特にスポーツをされている方、骨折や脳卒中が既往にある方では機能障害や疼痛が生じるケースを多く観察されます。
今回は、肩関節を構成している非常に重要な筋であるローテーターカフ(回旋筋腱版)の機能と評価方法を解説していきます。
ローテーターカフ(回旋筋腱版)とは?
ローテーターカフとは、肩甲骨から上腕骨近位に付着している筋肉である肩甲下筋、棘上筋、棘下筋、小円筋の総称です。
複合的な運動を行う肩関節の、安定性と固定性に機能しています。
解剖学
棘上筋
起始:肩甲骨棘上窩2/3
停止:大結節
支配神経:肩甲上神経
作用:肩関節 外転
棘下筋
起始:棘下窩
停止:大結節
支配神経:肩甲上神経
作用:肩関節 外旋
小円筋
起始:大結節
停止:大結節
支配神経:腋窩神経
作用:肩関節 外旋
肩甲下筋
起始:肩甲下窩
停止:小結節
支配神経:肩甲上神経
作用:肩関節 内旋
機能
棘上筋
棘上筋は、三角筋と共に肩関節外転に作用します。
この時、棘上筋は上腕骨頭を関節窩に向かって引きつける求心力の働きをしており、これにより肩関節外転の運動支点を形成しています。
棘上筋の支点形成と、三角筋の強力な運動モーメントが協調的に作用して初めて、円滑な外転運動が起こります。
このように、関節運動がおこる時に、2つ以上の筋肉が協調的に動く機能のことを『フォースカップル作用』といいます。
棘下筋
棘下筋は、小円筋と共に肩関節外旋に作用します。
また、上腕骨頭の後方へのブレを制動しており、肩関節後方の安定性に作用しています。
特に、洗髪動作やオーバーハンドスポーツ(野球・バレーボールetc…)では、負担がかかりやすい筋の一つです。
小円筋
小円筋は、棘下筋と同じく肩関節外旋に作用しています。
違う点としては、起始・停止部の関係上、上肢挙上位では小円筋が、下垂位では棘下筋が作用しやすいです。
肩甲下筋
肩甲下筋は、肩関節内旋に作用しています。
背中のシャツを入れたり、後ろの荷物を取ったりする動作に関係しています。
また、上腕骨頭の前方へのブレ(不安定性)を制動しており、肩関節前方の安定性を作用しています。
評価方法
棘上筋テスト(supraspinatus test:SSP test)
上肢外転運動に伴う疼痛が生じる場合、まず評価するべき筋肉は棘上筋です。
肩関節内旋位(親指を下に向けた姿位:thumb down姿位)で、左右同時に外転運動を行い抵抗を与えます。
この時の肩関節の疼痛の有無・筋力の左右差を評価します。
肩関節内旋位(thumb down姿位)で行う必要がある理由としては、上腕二頭筋長頭の関与を抑制させるためです。
肩関節中間位・外旋位では、棘上筋の作用の一つである「骨頭の求心性(骨頭の上昇を抑える力)」が、上腕二頭筋長頭により助けられてしまい、棘上筋の評価が正確に行えないため、注意しましょう。
棘下筋テスト(infraspinatus test:ISP test)
肩関節下垂位(肩をダラーんと垂らした姿位)、肘関節屈曲で肩関節を外旋し抵抗を与えます。
この際、肩関節下垂位で行う理由としては、正式に記載されている文献は見当たりませんが、恐らく、同じく外旋運動に関与する小円筋の活動を抑制させたいからだと推測されます。
筋繊維の構造上、肩関節下垂位では小円筋が緩み、棘下筋の活動が増加します。逆に、肩関節外転位では棘下筋が緩み、小円筋の活動が増加します。
肩甲下筋テスト①(ベリープレステスト)
肩関節下垂位で、手のひらを腹部に当て、腹部を圧迫するように肩関節を内旋します。
肩関節が伸展し、肘が後方(背中側)に移動する現象がみられると、肩甲下筋の運動障害が考えられます。
この際、大胸筋による代償が生じてないか注意しましょう。
肩甲下筋テスト②(リフトオフテスト)
手背を背中にあてた状態(肩関節伸展・内旋)から、手を背中から離す際の筋力を評価します。
このテストでは、大胸筋は全く作用しません。
しかし、肩が前に突き出る(肩関節前傾)様子が観察された場合には、小胸筋・肩甲挙筋・前鋸筋による代償が推測されます。
Drop arm sign(ドロップアームサイン)
上肢を他動的に90°外転させ、その位置で保持するよう指示します。
この時、手掌は下を向いた状態で行います。上肢を保持できず下垂(drop)してしまうと陽性です。
この検査は、腱版の機能により骨頭を求心位に保てているかを評価することができ、腱版断裂の検査として広く用いられます。
その他、インピンジメント症候群の評価も参考にすると良いでしょう。
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